石川建築賞

第44回受賞作品

知事賞【一般建築】

作品名(建築物名称) 金沢美術工芸大学
所在地 金沢市
建築主 金沢市
設計者 SALHAUS,カワグチテイ建築計画,仲建築設計スタジオ
施工者 真柄・トーケン・兼六・北川・鈴木特定建設工事共同企業体
城東・ウィルビー・本田特定建設工事共同企業体

金沢小立野台地に整備された文化芸術エリアへの新キャンパス移転プロジェクトである。
金沢の伝統的な都市空間に見られる「広見」の概念を空間構成に取り入れ、創作活動への自然な誘導と学生の没入を促す「創作の庭」を配置することで、「開放性」と「集中性」、「地域交流」と「創造活動」の両立を図っている。
アートプロムナードと5つの庭は、学生と地域住民との交流を促進する場として機能し、共通工房やアートコモンズにより分野横断的な創造的協働が日常的に生まれる設計となっている。建築構造は3.9mグリッドを基盤とし、多様な構造形式を用いることで柔軟性と施工性を両立。中廊下形式の校舎には壁柱によるラーメン構造を採用し、広い無柱空間と高いメンテナンス性を確保している。
ランドスケープは、地域と接続する開放的な空間と居場所、それらを結ぶ散策路ネットワークによって構成され、地域に開かれた交流の場を形成。2つのプラザには異なる構造形式のガラス屋根を設け、通過型と滞留型という対照的な空間体験を提供している。
3つの建築事務所が協働し、スケルトン・インフィル・ファサードを分担することで、内部空間の多様性と外観の統一感を両立させ、都市的な一体感と創造性の融合を実現した建築として高く評価された。
(選評:道地 慶子)

入選【一般建築】

作品名(建築物名称) 羽咋市にぎわい交流拠点 LAKUNAはくい
所在地 羽咋市
建築主 羽咋市
設計者 株式会社 五井建築研究所
施工者 松井・小倉特定建設工事共同企業体

JR羽咋駅西側の長者川に面した公共建築である。
図書カフェ・学習スペース(1階)、屋内公園(2階)、各種スタジオ(3階)など、多世代に向けた諸室で構成され、廃業したショッピングセンターの跡地に建っている。
建物用途を特定できない不思議な施設であるが、それ以上に興味深いのが立面である。かつて公共建築を席巻した水平線を強調する意匠は1960年代中頃には形骸化してしまった。一見するとそうした意匠を想起させたりするが、緩やかに折れ曲がった平面に広めのバルコニーを巡らし、4階まで続く直階段を設けることによって変化に富んだ立体回遊経路をつくり出している。
実際、オープニングイベントでは北側バルコニーが観覧に活用され、開館後にはバルコニーを散策路として利用する住民も現れているという。
以上、今日的な公共建築に豊かな回遊スペースを纏わせた設計が評価されての入選となった。
(選評:佐藤 考一)

入選【一般建築】

作品名(建築物名称) 石川県森林公園屋内木育施設 もりのひみつきち
所在地 津幡町
建築主 石川県
設計者 株式会社 金沢計画研究所
施工者 豊蔵組・サンエキ特定建設工事共同企業体

大きな庇で車を降り、エントランス空間を通り抜けると、大きな滑り台のある遊具を目掛けて子どもたちが飛び出していく。その様子を見ながらふと見上げるとトップライの光、その周囲を木梁が円を描く、まるで太陽の光が森からのぞきこむかのようだ。この構造はレシプロカル構造といい、手を握り合うように、部材同士が相互に支え合う構造形式である。
そもそも、そこまで期待されてはいない遊び場であった。据え置かれる遊具も先に決まり、設計者を決める方法も入札であった。それらの設計条件に対して、レシプロカル構造、2重の耐力壁、82%の木材をこの周辺の山で伐採、周辺スロープから遊具へのアプローチ、大きな庇下でのイベント活用…、全て設計者側からの提案である。
それらの提案によって建築と遊具が一体となった遊び場が実現され、見事な地産地消の建築に昇華した。何度でも遊びに行きたい遊び場であり、この遊び場で育つ子どもたちの成長が楽しみである。
(選評:西本 雅人)

入選【住宅建築】

作品名(建築物名称) 長坂の浮輪
所在地 金沢市
設計者 てらさき建築設計
施工者 鈴木建設株式会社

この作品は、金沢市長坂の細い街路に囲まれた住宅地に立つ、住宅及び仕事場である。
タイトル通り最大の特徴は、2階に持ち上げられたリング状の住居部分である。できる限り階高を抑えたプロポーションとその構成はこの地域が持つヒューマンスケールに良く馴染み、周辺に対してとてもフレンドリーな印象を与えている。中庭に土を盛って作られた丘は住居へのアプローチであると同時に中庭の緑への日照の確保にも繋がっている。これにより大胆に開かれたリング内側の開口部からは四季折々の自然を感じ取ることが可能となっている。
また各諸室が一筆書きに配され、建具のみで仕切られた平面計画も家族のおおらかな距離感を表しているが、一階の部屋の存在により将来的に多様な住み方を担保している点も面白い。リングの幅も必要最低限に抑えられながら、窮屈さを感じない様に巧みなコントロールがされており、低く抑えられた断面形状ともあいまって居心地の良さを生み出していると感じた。
(選評:宮下 智裕)

入選【住宅建築】

作品名(建築物名称) 室木家
所在地 七尾市
設計者 株式会社 髙屋設計環境デザインルーム、安田建築スタジオ
施工者 松浦建設 株式会社

熊木川の堤防の拡幅に伴い移築を迫られた登録有形文化財を、原形の意匠を尊重しながら耐震・断熱性能を高め、文化財の保全と快適な生活を両立した住宅である。
移築時に90度回転した建物配置と蔵を活用した生活棟が光と風を取り込み、伝統空間に居住性をもたらしている。構造面では基礎の補強と壁量計算によって新築同等の耐力を確保している。外皮平均熱貫流率0.73を達成した技術的挑戦は、文化財であっても快適性と省エネを諦めない姿勢を示す。蔵を寝室へ転用する内部計画は素材を活かしつつ現代生活に応える柔軟さを示し、歴史資産の次世代継承に示唆を与える。
移築ゾーンと生活ゾーンを緩やかに結ぶ動線計画は、将来の地域コミュニティ利用も意識されており、保存に留まらない持続的活用のモデルとなっている。
石川が誇る民家文化を未来へつなぐ実践として入選にふさわしい作品である。
(選評:豊島 祐樹)


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