石川建築賞

第43回受賞作品

優秀賞【住宅建築】

作品名(建築物名称) 宮丸の家
所在地 白山市
設計者 中宮紘也建築事務所
施工者 株式会社 橋本工建

田畑のなかなのか、それは我が家の庭なのか、境界線がどこなのか、そのあいまいさの中にたたずむ姿がとても自然に感じる住宅で、周囲のどの方向から見ても裏側がない平屋、瓦屋根の端正な建物である。
方形の屋根の下に小さな正方形を少し偏心配置させた潔い平面構成により、ワンルームの空間を適切に分節している。リビングに腰を下ろすとぎりぎりまで押さえた軒高から生まれた程よい低い天井に包み込まれる。窓から田畑を眺めると、外への視線が伸びやかに長くはねだした軒を沿うように抜けていき開放感がある。方形の屋根のかけ方次第でその気積は決定されるが、平面、垂直とものスケール感が絶妙にかみ合い設計の統合力が秀逸である。
伝統的な大工の手刻み加工を採用し、その大工仕事に倣うように無理のない構成を担保して実現した合理性と美しさ、何より設計者は伝統技術の継承に寄与し丁寧に作品を仕上げていることが高く評価された。
(選評:道地 慶子)

入選【一般建築】

作品名(建築物名称) スマイルカフェ・スマイルレンタカー粟津温泉店
所在地 小松市
建築主 スマイルレンタカー粟津温泉店
設計者 百一
施工者 株式会社 三和建設

1300 年の歴史を持つ粟津温泉駅の参道入り口の交差点に建つレンタカーショップである。
衰退の影が落ちるこの地で地域に携わることをしたいという施主の思いからカフェやレンタルスペース、外部の水場を付属し、行燈のように照らす外観を目指した。
もともとのレンタカーショップのエリアはカウンターひとつだけ、と最小限に抑えられ、建物の大部分が付属したスペースとなっており、機能の主従関係が逆転していることも面白い。
レンタルスペースの活用は明確に決まっていないが、寺子屋的に大学生がこどもの勉強の手伝いをしてくれる場所としたり、2024 年1月の震災時には炊き出しやボランティア活動の場所として提供された実績がある。
なにかを決めてからではなく、「余白を残しておき、とありあえず使ってみる」というスタンスがこの地域にゆるやかな利用縁をもたらしてくれると期待される。
(選評:西本 雅人)

入選【一般建築】

作品名(建築物名称) Jシステムビル
所在地 金沢市
建築主 株式会社 Jシステム
設計者 株式会社 五井建築研究所
施工者 株式会社 豊蔵組

昭和から続く歴史あるビジネスの町に建つ、環境配慮型の新しいオフィスビルである。限られた床面積を有効に利用するため、コアタイプを偏心コアとし、まとまった執務空間を確保している。
また、PC 梁を用いることで約 15m 四方の無柱空間を実現し、レイアウトの変更に柔軟に対応可能である。
南側の開口部にはインナーサッシを設置し、エアフローウィンドウ方式として熱負荷を軽減している。北側開口部の上部に設けられた排煙窓は、室内および外観から隠されていて、意匠面でも細やかな配慮がされている。
その他、庇やライトシェルフ、プランターバルコニーが適切に計画され、心地よいオフィス空間がつくられるとともに、建築を特徴付ける外観のデザイン要素にもなっている。
以上のように、意匠・構造・設備のそれぞれの面において欠点が無く、総合力の高さが評価され、入選となった。
(選評:豊島祐樹)

入選【一般建築】

作品名(建築物名称) THE HOTEL SANRAKU KANAZAWA
所在地 金沢市
建築主 株式会社 ケン・コーポレーション
設計者 株式会社 国建
施工者 佐藤工業株式会社 北陸支店

旧北陸郵政局跡地という金沢中心市街地において、ディスティネーションホテルを具現化した建築である。この狙いを如実に示しているのが敷地中央の庭園と建物各所の工芸品になるが、近代の金沢から着想を得た外観も味わい深い。
金沢には様々に転用されたレンガ造建築が現存する。それらを踏まえた赤レンガ壁は、ファサードを彩りつつ近江町市場からのアイキャッチを作り出している。立面全体としては郵政スタイルが基調であり、各階の RC 庇が建物ヴォリュームを適度に分節している。
さらにフィーレンデール架構の小柱と耐震壁の細かな水平リブも加わって、彫りの深い立面が生み出されている。
RC造といえども、今日では平滑な建築表現が指向されがちである。しかしこの建築は、現場打ちコンクリートには豊かな塑造性があること、そしてこの特質を十分に発現できる技術が日本にはまだ存在することを再認識させてくれる点でも興味深い作品である。
(選評:佐藤考一)

入選【住宅建築】

作品名(建築物名称) BOND
所在地 白山市
設計者 KELUN
施工者 道場建設 株式会社

大きな一枚の壁に、天幕を一部広げたようなスリットだけがあるファサードが特徴的な住宅である。
閉じられているにもかかわらず、誘われているようでもあるそのスリットをくぐると土間的な空間と玄関が現れる。
室内に入るとファサードからは想像もつかない程、明るく開放的なリビングダイニングとなっていた。巨大な白い壁により拡散された光が全面のガラスから取り込まれ、柔らかな光に包まれたような空間となっている。壁により外に対して閉じ、内に対して開くという住宅のコンセプトが明確に表現されている。
施主のライフスタイルに合わせ、住宅全体をワンルームの様に計画されているが、リビングの光が 2 階や奥の部屋にも届くことで、一つの空間としてのゆるやかな繋がりが強調されている様に感じた。
住宅地においてファサードが周辺環境に対し非常に閉鎖的である点についても、袋小路の奥にある今回の敷地では、あり得る解答の一つではないかと考える。
大きな壁による明快なチャレンジと豊かな空間構成の実現が見られるとても魅力的な住宅である。
(選評 宮下智裕)


Copyright © Ishikawa Society of Architects & Building Engineers. All Rights Reserved.